リハーサルはこう進む
二時間の演奏会のために、どれくらい練習するのか。意外に思われますが、プロの管弦楽団が一つのプログラムに充てる合奏練習は、多くの場合わずか三日から四日です。全員が集まって音を合わせられる時間は限られており、その限られた時間をどう使うかが、そのまま本番の質になります。
合奏が始まる前に
練習初日の時点で、奏者は自分のパートをすでに弾ける状態にしています。個人練習は本番までの準備の大半を占めますが、それは合奏の外側で完結する作業です。同時にライブラリアンと呼ばれる担当者が、全パートの譜面を用意し、弓の上げ下げの指示(ボウイング)を書き込んで配布しています。弦楽器が視覚的にそろって見えるのは、この事前作業の結果です。
一日目 — 通して、地図を作る
初日はまず通して演奏することが多く、細部を止めるより全体の見取り図を共有することが優先されます。テンポの基本設定、各部の音量のバランス、どの声部を前面に出すか。この段階で指揮者が示すのは「この曲をどう読むか」という方針であり、そこから逆算して細部の作業が決まっていきます。
二日目以降 — 止めて、詰める
ここからは頻繁に止まります。合わせの難所は決まっており、テンポが変わる継ぎ目、弱音から急に強くなる箇所、遠く離れた席の楽器同士が同じリズムを刻む場面などです。舞台の端から端までは十数メートルあり、音が届くまでに実際の時間差が生じます。奏者が指揮者を見て合わせるのは、耳だけに頼ると必ず遅れるからです。
必要に応じて、セクションだけを取り出した分奏(セクション練習)が組まれます。弦だけ、木管だけと分けて音程や発音をそろえる作業で、全員を拘束せずに精度を上げられる効率的な方法です。
ゲネラルプローベ
本番と同じ会場で、本番と同じ流れで行う最終確認をゲネラルプローベ(略してゲネプロ)と呼びます。ドイツ語に由来する言葉で、日本の楽団でも日常的に使われています。ここで初めて、練習室ではなく本番のホールの響きの中で音を作ることになります。練習室で完璧だったバランスがホールでは通用しないことは珍しくなく、残響の長い部屋では速い音の連なりが濁るため、発音を短く整え直すといった調整が入ります。
公開リハーサルという機会
リハーサルの一部を聴衆に開放する公開リハーサルは、多くの楽団が行っています。演奏が止まり、指示が飛び、もう一度弾き直される——その過程を見ると、完成した演奏がどれほど多くの判断の積み重ねでできているかがよく分かります。もし機会があれば、本番より学べることは多いかもしれません。
客演の場合はさらに短い
その楽団に所属しない指揮者や独奏者を招く公演では、顔を合わせてから本番までの時間がいっそう限られます。独奏者が現地に入るのは初回合わせの直前ということも珍しくなく、協奏曲の練習は実質一回か二回で仕上げることになります。この短さが成立するのは、双方が同じ譜面という共通言語を持っているからです。互いの解釈をすり合わせる場は、多くの場合その一回か二回の合わせの中にしかありません。
止まる場所には理由がある
公開リハーサルを見ていると、指揮者が止める箇所には偏りがあることに気づきます。ほとんどは次の三つのどれかです。テンポが切り替わる継ぎ目、複数の楽器が同時に入る瞬間、そして音量を大きく変える場面。いずれも「全員の判断が揃わないと崩れる」地点で、逆に言えば、そこさえ揃えば残りは各自の練習で成立します。限られた合奏時間をどこに使うかという配分そのものが、指揮者の技量の一部です。
本番当日の流れ
当日は午前中にゲネラルプローベを行い、午後に休息を取って夜の開演を迎えるのが標準的な形です。開演の三十分ほど前から舞台に人が出はじめ、各自が最終確認を行います。開演直前の調弦は、その日の温度と湿度で楽器の状態が変わるために必要な作業で、儀式ではありません。管楽器は息で温まると音程が上がり、弦楽器は湿度で張力が変わります。
練習で配られるパート譜と、指揮者が読む総譜との関係を実物で確かめたい場合は、公共の楽譜アーカイブで両方を並べて閲覧できます。本番当日の曲順そのものの設計については、プログラムの組み立て方を参照してください。ホールの響きが演奏をどう変えるかはホールと音響で扱います。
