オーケストラという組織
演奏会の当日、舞台の上には百人近い奏者がいます。けれども一回の公演を成立させている人の数は、それよりずっと多い。ここでは、常設の管弦楽団という組織がどう構成されているのかを、一般的な形として整理します。
当サイトは独立した資料サイトです。特定の楽団・団体を紹介するものではなく、以下の説明は常設楽団に共通する一般的な組織構造についてのものです。
楽員
演奏を担当する職員です。多くの楽団では、各セクションに首席奏者が置かれ、そのセクション内の技術的な判断と統率を担います。首席は独奏部分を担当することも多く、責任の範囲がはっきり分かれています。入団はオーディションによるのが通例で、多くの場合は複数回の審査を経ます。審査の一部を衝立の向こうで行い、審査員に演奏者が見えない状態で判断する方式が広く採られています。
ライブラリアン
楽譜を管理する専門職です。上演する版を選定し、全パートの譜面を揃え、弓の指示や練習番号を書き込んで配布し、公演後に回収して次に備える。作品によっては出版譜の借用手続きも必要になります。奏者の譜面台に正しい譜面が正しい状態で載っていることは自明ではなく、この職種の仕事の結果です。
ステージマネージャー
舞台上の物理的な段取りを担当します。曲ごとに異なる椅子と譜面台の数、雛壇の高さ、打楽器の配置、休憩中の転換。楽器の輸送も業務に含まれ、大型打楽器やコントラバスを会場へ運び入れて調整するところまでが仕事です。休憩時間に舞台上で人が手際よく動いているのを見かけたら、その配置は事前に図面で決められています。
事務局
公演の企画、日程調整、会場の確保、広報、チケット運営、そして資金面の管理。演奏会は数か月から数年前に計画が始まるため、事務局は常に複数のシーズンを並行して扱っています。公演一回あたりの意思決定の大半は、実はここで行われています。
音楽面の責任者
楽団の芸術的方向を決める立場が置かれるのが一般的です。曲目の編成、客演者の選定、楽団の技術的な成長の方針を担当します。名称や権限の範囲は団体によって異なりますが、シーズン全体を一つの作品として設計する役割である点は共通しています。詳しくは指揮者の仕事で扱っています。
費用の話
入団という関門
常設楽団の楽員となる道は、原則としてオーディションです。応募者数に対して空席は極端に少なく、一つの席に多数が集まることも珍しくありません。審査は課題曲の演奏に加え、管弦楽作品の中の難所を抜き出した箇所——オーケストラ・スタディと呼ばれます——を演奏する形式が一般的です。これは独奏の技量ではなく、合奏の中で求められる能力を測るための課題です。合格後に試用期間が設けられることも多く、実際に合奏の一員として機能するかどうかが確認されます。
楽器は誰のものか
弦楽器の奏者は自分の楽器を使うのが一般的で、これは職業上の道具であると同時に高額な資産でもあります。一方、ティンパニや大型の打楽器、ハープ、コントラファゴットのように、個人が所有するには大きすぎる、あるいは高価すぎる楽器は団体が保有します。これらの楽器の維持と輸送は運営費の中で無視できない項目で、公演のたびに専用の車両で運ばれます。
楽団という職場
常設の管弦楽団は、芸術団体であると同時に雇用の場です。定年、休暇、労働時間の取り決めがあり、産休や育休の制度もあります。演奏という仕事の性質上、代役の確保が難しいという固有の事情はありますが、基本的な枠組みは他の職場と変わりません。演奏会という非日常の背後には、こうした日常の運営が積み重なっています。
これだけの体制を維持する費用がどこから来るのかは、それ自体が一つの主題です。オーケストラを支える仕組みにまとめました。日本の文化政策の枠組みそのものについては、文化庁が制度の一次情報を公開しています。